ルーマニアン・ニューウェーブ*をリードするクリスティアン・ムンジウは、監督と脚本を手掛けた2007年の長編第二作『4ヶ月、3週と2日』でチャウシェスク独裁政権末期1987年のルーマニアを舞台に、妊娠したルームメイトの違法な中絶を助けしようと駆け回る主人公の1日を描き、初めて第60回カンヌ国際映画祭のコンペティション部門に選ばれ、その衝撃的で緊張感に満ちた映像で、ルーマニアに初の最高賞パルムドールをもたらした。世界中に名を知られることになり次の作品が期待されるなか、5年後、2012年・第65回カンヌ映画祭において、『汚れなき祈り』で、女優賞&脚本賞のW受賞を得る。2016年・第69回カンヌ映画祭において、卒業試験に娘を合格させるため、違法なコネとツテを使い奔走する親の姿を描いた『エリザのために』(監督・脚本・製作)で、見事、監督賞を受賞する。徹底したリアリズムと緻密な脚本、秩序ある構成は、ムンジウの映画を他とは一線を画す存在へと引き上げている。
*ルーマニアン・ニューウェーブ…ムンジウを初め、第63回ベルリン映画祭 金熊賞(最高賞)受賞『私の、息子』の
カリン・ペーター・ネッツアー監督など、ルーマニアでは近年世界の映画祭で評価を受ける監督・作品が次々と輩出されている。
医師ロメオには、イギリス留学を控える娘エリザがいる。彼には愛人がおり、家庭は決してうまくいっているとは言えない。ある朝、ロメオは車で娘を学校へ送っていくが、校内に入る手前で降ろし、彼女は徒歩で登校することに。しかし白昼人通りもあるなかで、エリザは暴漢に襲われてしまう。大事には至らなかったが、娘の動揺は大きく、留学を決める翌日の卒業試験に影響を及ぼしそうだ。これまで優秀な成績を収めてきたエリザは、何もなければ合格点を取り、ケンブリッジ大学で奨学生になれるはずだった。ロメオは娘の留学をかなえるべく、警察署長、副市長、試験官とツテとコネを駆使し、ある条件と交換に試験に合格させてくれるよう奔走する。しかしそれは決して正しいとは言えない行動で、ついに検察官が彼の元へやってくる…。
(敬称略・順不動)
関 東 |
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ハリウッドの監督は逆立ちしても出来ない秀作。